ブランドに対する強い想い、こだわりを持ち、立ち上がったオンリーワンのブランドがあります。「ACUOD by CHANU(アクオド・バイ・チャヌ)」。「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」のルックブックには、アクオドのレザーのマスクが使用され、雑誌『VOGUE(ヴォーグ)』にも掲載されています。立ち上がってまだ1年弱のこのブランドはファッション業界で怒涛のごとく快進撃を進めています。まるで、今季のテーマである「下克上」のように。
(写真と文・雨宮正芳、ショーと人物写真提供・アクオド)
左がディレクターの下尾さん、右がデザイナーのチャヌさん/2018年春夏コレクションで使われたレザーのマスク
アクオドの2018年春夏アマゾンファッションウィークのショーは「下克上」をテーマに現代版「織田信長」をイメージしたものになっていました。ショーの初めに今回のテーマを象徴する演出があり、ヒップホップの「クランプ」という分野のダンスに、日本最古の舞である「幸若舞」の型を取り入れた時間と空間を超えたコラボレーションとなるようなパフォーマンスが披露されました。途中で使われるほら貝、銃声、馬の鳴き声などの音もリアルなサンプリング音源で配信されているこだわりようです。
そんなこだわりは、もちろん洋服にも現れています。アクオドの洋服は、シーズンを問わずにジップを使っているのが特徴で、ジップを使っていないアイテムは1つもありません。ブランドのメインディテールとして使用されているジップはYKKの「エクセラ」というハイブランドのバックに使用される最高級のジップ。1つ1つのエレメントに磨きがかかり、ジップ自体に装飾性があるため、アクセサリーのようなイメージとして捉えることが出来ます。一層目を惹くアイテムが袖に何十個ものジップが施されたライダースです。このアイテムはかなりずっしりとしていて、まさに甲冑のような仕上がり。襟は着物のように重なるようになっており、素材は戦国を馬で駆けるという意味でホースレザー(馬革)が使われるなどアイテム自体にもストーリー性を持たせたもの作りをしています。
下の写真・左の商品のプリントは、レプリカではなく本物の甲冑が元になっています。日本で唯一の甲冑の骨董屋に当時からある実際の甲冑の写真を撮り、グラフィック処理して、リアルクローズとして着用できるオリジナルのものに仕上げました。
全てのアイテムは、ワンサイズでユニセックス。150センチの女性から190センチ以上の男性まで幅広く着用でき、デザインとパターンにより誰が着用しても、それぞれのシルエットが綺麗に出るように計算され、真のユニセックスのデザインになっています。
デザイナーである李燦雨(チャヌ)さんとディレクターの下尾卓也さんに話を聞きました。
ブランドを初めたきっかけは何だったのですか
チャヌ 自分がブランドを始めたのは、モード学園在学中でした。最初はブランドを始めるのは卒業して就職し、経験を積み、お金を貯めてからのつもりだったのですが、大好きな東京のファッション界が盛り上がってないと感じ、自分で立ち上げて自分で盛り上げたいと思い、在学中にかなり無理をして立ち上げました。
ファッション業界に元気がないという話題が出ましたが、どうしたら良くなると考えますか。
チャヌ それぞれのブランドに正解はあると思いますが、やはりどこを見渡しても同じ商品が溢れている現状だからこそ、振り切ることが必要だと感じています。人が右に行くと言ったら自分達は左に行くことにする。洋服作りにおいては、少なくともパンチが効いたものの方が活性化に繋がると思っています。でも自分達の作っている洋服は、ただパンチがあるだけではない。派手だったり気をてらった洋服だったら誰でもできるが、リアルクローズとして着用でき、機能を持ちつつ、縫製もしっかりし、なぜそのテーマでそれを作ったのかというストーリーを持つということまでもしっかり落とし込めるような洋服作りをしています。
ブランドの特徴であるジップは、機能的にも装飾的にも、なぜそこに置くのかを考えてデザインしています。意味無く付けられたものではなく、こだわり抜かれた考えがあります。
下尾 縫製など細いところにも気を使い、日本の伝統的な技術を使っています。そこには、ストーリー性もあり、演出にも音から全部こだわっている。人と同じやり方では、同じことしかできない。人と違うやり方をし、自分たちにしかできないことをするというような下克上スピリットを持ってやっています。それがファッション業界の活性化に繋がると思う。
今回は、なぜ信長であり、テーマを下克上にしたのですか
下尾 ハイブランドに負けないのではなく、勝ちに行くという気持ち。東京コレクションを今回で3シーズンやっていますが、バイヤーが売れ筋に重きを置いて守りに入っているように感じています。新しいものを発掘し、お客様にブランドを伝えファンを増やしていくというバイヤーとしての当たり前の仕事が当たり前になっていない現状。新しいものが発掘されなければ、ファッション業界は更に縮小していくと思う。本来みんながするべき役割をするべきだと感じています。だからこそ自分達がすることは、守りに入る時代だからこそ攻めていくこと。なので下克上だと。
ファッションで自分を表現するというが、その言葉を本当に理解している人はどれくらいいるでしょうか。ただ商品を売っているだけではなく、全体のスタイル、ストーリーを示しながらカルチャーも含めブランドの価値を発信している。ここまで作り込まれているブランドは、なかなか無いでしょう。アクオドの二人に話を聞いて、洋服にかける強い気持ちとこだわりを感じました。彼らが放つ言葉には熱があり、心に響きます。
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