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ファッションビジネス学会2014年全国大会が11月29日、大阪市の大阪文化服装学院で開かれました。全国から研究者ら約120人が集まり、午前の基調講演「パルグループの中長期ビジョンとCSRへの取り組み」(講師・井上英隆パルグループ代表取締役会長)の後、23の研究発表会と参加者による交流パーティーも行なわれました。

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基調講演の中で井上氏は、「トップ・ハイ・ベーシック・マス」の4つのグレードを示し、その中で「ハイとベーシック」をターゲットに据えてきたこと。また採用試験では筆記を行わず全て面接で「オモロイ奴」を採ってきたことが社内を活性化させてきた源泉だったと語りました。そして「信頼され、任されて、自身のアイデアも入れて、なおかつ権限も委譲することで任務遂行できる幸せが大切」とし、「評価制度も働きに応じて平等である」という形にしていると述べ、「1回に1000万のボーナスが出た人が5人も居ります」と胸を張りました。

一方、「2~3年前から厳しい環境下にある」と指摘し、「顧客の購買嗜好と気候の変化、バーゲンの早期化やSCの増加による競合激化、円安によるコストアップなど多難な状況にあり、それをMD改革と生産のプラットフォーム化で乗り切っている途上だ」と強調しました。

また今秋スタートの新業態「コロニー2139(トゥワンスリーナイン)」について「ムジでは飽き足らなくなった人のためのモード系ベーシック」と位置づけ、1店舗当たりの売上高10億円、7年間で500億円を目指し、年商1500億円の壁を突破していくための新たな布石だと述べました。

海外進出については、次の世代の課題としつつも、「まずは米国からスタートし、その後シンガポールから東南アジアへと広げていきたい」とビジョンを語りました。

最後にCSR活動に触れ、社是の「常に新しいファッションライフの提案を通して、社会に貢献する」と経営理念の「社員と株主、みんなの幸せのための経営」を提示し、公益法人「パル井上財団」を設立し、大阪大学への寄付や奨学金支給、白浜のホテルでの障害者雇用や植林活動なども行なっていることを紹介しました。そして教育的視点から「この業界も高度化してきているので、もっと踏み込んで人作りを行っていく必要がある」と教育界への期待と苦言を呈しました。

続いて午後に開かれた23の研究発表では、「総合」「生活」「商業」「教育」「創造」の5つの分野で活発な質疑応答が繰り広げられました。

「グローバル視点でのファッションビジネス教育」と題した杉野服飾大学・山崎光弘教授の発表では文部科学省が2014年3月に「グローバル人材育成カリキュラム」を答申したにもかかわらず、グローバル人材育成の授業に取り組めている学校は10%しか無く、「今後も取り組めない」とした回答が60%もあったと指摘。「やらないという立場ではなく、やれない、教育できる人材が居ないというのが本音」と現状を明らかにしました。

共立女子大学の宮武恵子教授は「女子学生のファッション意識の継続的調査を基にした実学及び学術の事例」と題した8年間に渡る調査の結果を発表しまた。その中で主に「ストリート系」と「萌えギャル系」の傾向を披露。今年に入って、両分野において雑誌『nonno』の存在感が増していることが明らかになりました。

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パリのコレクションの変化からリクチュール市場の創生をテーマに掲げた発表を行ったのは杉野服飾大学・織田晃教授です。パリ・プレタのトレンドへの影響力低下と近年のオートクチュールコレクションの盛り返し、そこに社会構造の変化を踏まえて、持続可能性と再生社会を見据えたリサイクル、リメークをクチュールレベルで合成させるという取り組みの未来を提起しました。

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ビジネスという視点に立った際に、学会との距離に大きな隔たりを感じざるを得ない内容でしたが、ファッションをビジネス的観点から学問しようという学会は他には無い点から考えても、より一層業界との結びつきを強め、人材交流も進めながら、教育レベルのアップと研究成果の産業界への情報的還元を強化していく事が求められています。

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